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粋な辰巳芸者を巡って、十返舎一九と喜多川月麿が草津温泉で巻き起こす馬鹿騒ぎをお楽しみ下さい。
2017 . 06
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    西の河原

     

    13.お鈴

     

     

     新三郎の案内で、賽(さい)の河原の奥まで見て回った一九は茶屋で一休みしながら、満足そうに描き溜めた手帳の絵を眺めた。

     熱い湯がブクブクと音を立てて噴き出している鬼の茶釜(ちゃがま)、河原にいくつも積んである石の五輪の塔、木の葉石、ゆるぎ石、鬼の角力場(すもうば)、さらに奥にある氷谷(こおりだに)、すべての景色が充分に読本に使えた。義仲の頃はもっと不気味で恐ろしい所だったに違いない。鬼の泉水と呼んでいた通り、鬼が出て来てもおかしくない恐ろしい所だった。

     読本の構想を練りながら、一九はふと、草津の湯が癩病(らいびょう)(ハンセン病)に効くという事を思い出した。癩病患者たちのいる安宿を見ておくのも読本のネタになるかもしれないと思った。

    「えっ、かってえの所に行くんですか」

     一九の意見を聞くと新三郎は顔をこわばらせた。

    「あんな汚えとこに行って、どうするつもりなんです」

    「ネタ捜しさ。ネタはどんなとこに落ちてるかわからねえからな」

    「どうしてもと言うのなら案内しますけど、覚悟して下さいよ。凄えとこですから」

     二人は泉水(せんすい)通りを戻り、広小路から立町(たつまち)の坂を上った。地蔵の湯へ行く四つ辻の角に料理屋の美濃屋があり、その先が新田町(しんでんまち)だった。美濃屋の先には小さな宿屋が並んでいる。宿屋の二階から湯治客が何人か、通りを眺めているが、癩病を患(わずら)っているようには思えなかった。

    「表通りにはいませんよ。裏の方に隠れてるんです」

     草津の入り口にある木戸が見えて来た辺りで、新三郎は左の細い路地に入って行った。宿と宿の間を抜けると粗末な小屋が並んでいるのが見えた。中には筵掛(むしろが)けの掘っ建て小屋もある。表通りとはまるで別世界だった。

     一九たちの姿を見ると顔や手足に汚い布(きれ)を巻き付けた乞食(こじき)たちが集まって来て、手を差し出して来た。その手が普通の乞食とは違っていた。指が曲がっているのはいい方で、ただれていたり、中には指が一本もない者もいる。目がつぶれている者、鼻がかけている者、片足のない者と想像を絶する姿の者たちが、うようよと現れた。

    「一文(もん)やって下しゃれませ」と言いながら、乞食たちは一九たちの後について来た。

    「どうします、まだ、奥の方を見ますか」と新三郎が懐手(ふところで)をしながら聞いた。

    「まだ、奥があるのか」

    「ええ、結構、あちこちから集まって来るんですよ。幸い、歩けねえような重病の者はいません。冬住みがあるので、奴らも一年中、ここにはいられませんからね、冬になるとどこかに行って、また、戻って来るんですよ」

    「そうか。せっかくだから見て行こうか」

    「そうですか」と新三郎はいやな顔をしながらも奥へと向かった。

     狭い路地は雨水が溜まってグシャグシャだった。下駄を泥だらけにしながら奥へと行くと小屋の中から次から次へと異様な者たちが、

    「おあまり下しゃれ、おあまり下しゃれ」と言いながら出て来た。

     乞食たちは一九の着物を引っ張ったり、指のない手で、一九の腕をつかんだりしてくる。さすがに、一九も気持ち悪くなり、

    「もういい。早く出よう」と新三郎を促した。

     新三郎はうなづき、乞食たちを払うように先へと進んだが、ふと、足を止めて、小屋の中を覗き込んだ。

     一九も小屋の中を見ると薄暗い中に若い娘の姿があった。

    「可哀想になア、あの若さで業(ごう)の病(やめえ)に冒されるとは‥‥‥」

    「ええ」と言いながら、新三郎は娘の姿をじっと見ていた。

     娘がチラっと振り向いた。

     その顔は以外にもまともだった。まともというより、泥沼の中に咲く一輪の蓮(はす)の花のように美しく思えた。

    「おい、おめえ、もしかして、お鈴じゃアねえのか」と新三郎が娘に声を掛けた。

    「えっ」と言いながら、娘は新三郎を見つめた。

    「もしかしたら、湯安さんとこの若旦那さん?」

    「ああ、俺だ。新三郎だ。おめえ、なんでこんなとこにいるんだ」

    「それは‥‥‥それより、若旦那こそ、どうして、こんなとこに」

    「いや、俺はちょっと、この先生を案内して‥‥‥それより、おめえ、かってえになっちまったのか」

     お鈴は首を振った。

    「おひゅひゅひゃんはわひらの観音ひゃまひゃ」と小屋の中にいた乞食が言った。

     一九がその乞食を見ると、頭を丸めて、ぼろぼろの墨染(すみぞめ)を着た年老いた乞食坊主だった。

    「とひどひ、わひらの面倒ほ見にひてふれるんひゃよ。勿体(ほってえ)ねえ事(ほと)ひゃ」

    「面倒を見る?」と新三郎は小屋の中に目をこらした。

     よく見ると、お鈴のそばに年寄りが寝ていて、お鈴は傷口を洗っていたようだった。

    「おい、おめえ、一体(いってえ)、何をしてるんだ」

     新三郎は下駄のまま小屋に上がるとお鈴の手を引っ張った。

    「若旦那、やめて」と言うのも聞かず、新三郎はお鈴の手を引いて小屋から連れ出した。

    「てめえら、どきやアがれ」

     凄い剣幕(けんまく)で乞食たちを追い散らすと、さっさとお鈴を連れて、その一画から出て行った。

     一九は慌てて、後を追った。

     曲がりくねった迷路のような細い路地を抜けるとようやく、表通りに出た。そこは美濃屋の裏辺りだった。新三郎はお鈴と言い合いをしながらも、さっさと歩き、広小路まで行くと近くの茶屋にお鈴を誘った。

    「さあ、訳を聞かせてくれ」と新三郎は声をあらげて言っていた。

     一九も茶屋に入って、二人の様子を見守った。

    「さっき言った通りです。あたしはあの人たちの面倒を見なければならないんです」

    「だから、どうして、おめえがそんな事をしなけりゃならねえんだって聞いてんだ」

    「あたし、もう決めたんです」

    「何を言ってやがんでえ。嫁入り前の娘が出入りするとこじゃアねえ」

    「あたし、お嫁になんて行きません」

    「まったく、どうなっちまったんでえ」

     お鈴は口を堅く閉じたまま、うつむいていた。明るい下で見ても美しい娘だった。こんな娘があんな所にいたなんて、一九にも信じられなかった。

    「もう、あたしの事は放っといて下さい」とお鈴は小声で言った。

    「おめえが赤岩(あかいわ)の先生んとこで働いてるってえのは聞いてたが、どうして、あんなかってえの面倒まで見なけりゃならねえんだ」

    「それがあたしのお仕事なんです」

    「なんだと、赤岩の先生にしろって言われたんか」

    「先生は関係ありません。先生もあたしがあんな事をするのは反対なんです。でも、あたしはやらなければならないんです」

    「だから、どうして、おめえがやらなけりゃアならねえんだよお」

    「誰もやらないから、あたしがやらなければならないんです」

    「まったく、何を言ってやがるんでえ。あんな奴らの面倒を見て何になるって言うんでえ。おめえ、しめえには、おめえもかってえになっちまうぞ」

    「構いません。その覚悟はもうできてます。若旦那さんには迷惑はお掛けしません。あたし、失礼します」

     お鈴は一九にも頭を下げると立町の坂を上って行った。その後ろ姿を見送りながら、

    「畜生、どうなっちまったんでえ」と新三郎は独り、つぶやいた。

    「余程の覚悟をしなけりゃア、あん中には入っちゃア行けねえ。大した娘だ」と一九は煙草の煙りを吐きながら言った。

    「幼馴染みなんですよ」

     新三郎はぽつりと言って、お鈴の後ろ姿をじっと見つめていた。お鈴の姿が見えなくなると照れ臭そうに一九を見て苦笑した。

    「ガキの頃はいつも真っ黒で男みてえな娘だった。でも、だんだんと綺麗になって、十六の時から、うちで壷廻(つぼまわ)りをやってたんです。あの器量ですからね、お客には人気がありましたよ。でも、俺が平塚に行く前の冬に、母親が病にかかって亡くなっちまったんです。そん時、世話になったのが赤岩の先生で、湯本の一族で伝左衛門ってえ医者なんですけど、何を思ったのか、その先生の手伝いを始めたんです。一度、道端で会って、ちょっと話をしたけど、先生が一緒だったので、すぐに別れました。それ以来、会ってなかったんです。まさか、あんなとこで会うとは思ってもいなかった」

    「もしかしたら、若旦那ともわけありの仲だったんじゃアありませんか」と一九は聞いてみた。

     新三郎は冷めたお茶をすすると素直にうなづいた。

    「壷廻りをやってた頃のあいつは毎晩、俺の部屋に来ましたよ。俺もあいつに夢中になったけど、あの頃の俺は草津から出たくてしょうがなかった。結局、俺はあいつと別れて平塚に行ったんですよ。帰って来てから会いてえとは思ったけど、あいつもいい年だし、俺なんか忘れて嫁に行った方がいいと思って‥‥‥」

    「身分が違い過ぎるのかな」

    「俺は身分なんてどうでもいいと思うんだけど、湯安を継ぐとなるとそうもいかなくて」

    「だろうな。しかるべき家柄(いえがら)の娘でなくちゃア世間体が保てねえからな。旧家の若旦那もつれえとこだな」

    「はい」

    「でも、さっき、お鈴ちゃんを引っ張って来た時の剣幕は凄かった。もしかして、若旦那は今でも、お鈴ちゃんの事を思ってんじゃアねえのかい」

    「いや、そんな事はありませんよ。あいつの事なんか、もう勝手にしやがれです。好きにすりゃアいいさ」

     新三郎はそう言いながら、空になった湯飲みの中をじっと見つめていた。

    「若旦那は総領だと聞いたんだが、弟はいねえのか」と一九は聞いた。

    「二人いたんだけど、二人とも死んじゃったんですよ。本当は六人兄弟だったんです。俺が十一になった春までは六人揃っていて、毎日、うるさかったんだけど、その年の四月に一つ上の姉えが流行り病で亡くなって、六月には上の弟が亡くなっちまったんです。そして、二年後には下の弟が亡くなって、五年前には一番下の妹が亡くなったんです。残ったのは俺と十七になる妹の八重だけなんです」

    「そうだったのか、四人も兄弟を亡くしてたとはなア‥‥‥六人のうちで男一人、女一人しか残らなかったのか。そいつは親御さんの思い入れも並大抵(なみてえてえ)なもんじゃアねえな」

    「ええ、そうなんです」

     新三郎はしばらく、うつむいていたが、顔を上げると一九に笑いかけ、

    「さて、次はどこに行きます」と聞いて来た。

    「そうだな。村ん中は大方(おおかた)見たし‥‥‥そうだ、昨日、薬師さんには行ったが、近衛龍山の歌は見なかった。そいつを見に行きますか」

    「あそこの境内(けいだい)には芭蕉(ばしょう)の句碑もあるんですよ」

    「そういえば、鷺白先生も言ってたな。是非、そいつは見なければならんな」

     お鈴の事から立ち直った新三郎は一九と一緒に薬師堂の石段を登った。一九が仁王門の彫り物を見上げていると、

    「先生、月麿さんがいますよ」と新三郎が鐘撞(かねつき)堂を指さした。

     見ると月麿が鐘撞堂の上に座り込んで、誰かと話をしている。

    「あれ、あの女、桐屋のお夏ですよ」

    「なに、かわらけお夏か」

     確かに、月麿と話をしているのは、麻の葉模様の単衣(ひとえ)を着たお夏だった。

    「あの二人、何してんでしょう」

    「さあな」と首を傾げながら、一九は月麿に声を掛けた。

    「先生、遅えですよ」と月麿は鐘撞堂から飛び降りて、一九たちに近づいて来た。

    「遅えって、何が遅えんだ」

    「だって、先生、賽の河原を見たら、ここに来るって言ってたじゃアねえですか」

    「ああ、そうだっけ。すっかり忘れてたわ」

    「ひでえなア」

    「俺が来なかったお陰で、お夏といい風情(ふぜえ)だったじゃねえか」

    「えっ、まあ、そうだけど」

     月麿は振り返って、お夏を見ながらニヤニヤする。お夏は鐘撞堂のそばに立ったまま、一九たちに頭を下げた。

    「で、謎はわかったのか」

    「そんなの全然、わかりゃアしませんよ。お夏も一緒に見てくれたんだけどね、何が何だか、さっぱりでさア」

     月麿は自分で写した近衛龍山の歌を一九に見せた。

     

     


    草津湯治之中、於薬師堂(やくしどうにおいて)彼本尊之名号(かのほんぞんのみょうごう)を句のかみにすへて
    法楽のために十首の歌をよ見けり             龍山

       山路新樹
    名もしらぬ草木あまたに茂(しげり)あひて
                  ふかき山ちやわけまよふらむ

       郭公幽
    むらさめのすきたつ山のみねこえて
                  かすかに名のるほととぎすかな

       海辺夏月
    やまおろし磯辺の松に吹たちて
                  なつなきなみのよする月影

       五月雨
    雲はなをかさなる山のをちこちも
                  わかぬはかりのさみたれのころ

       夏草夕露
    しけりあふ草のむらむらをく露や
                  くれてほたるの色にみゆらん

       馴増恋
    しらさりき露の情になれしはの
                  なるゝに袖のぬれんものとは

       契後隠恋
    うきはたたちきりをきにし閨(ねや)の戸を
                  あけやらぬ夜の人のつれなさ

       別後恋
    にくからぬ人にそひねのきぬぎぬは
                  いのちにかへておしきものかは

       旅行友稀
    しなのなる木曽路の山のけわしきに
                  ゆきかふ袖もまれのたひ人

       寄湯祝
    むすふてふこの谷かけの出湯(いでゆ)こそ
                  むへも老せぬくすり成けり

       天正十五年五月八日


       八月白根山雪を見て詠侍(よみはべ)る
    里はまた紅葉(もみじ)の秋に時知らぬ
                  白根に今朝は雪そ降りける

       常布滝(じょうふのたき)
    世に知らぬ布ならなくに山姫の
                  いかにさらせる白糸の滝


     
     

     

    「成程、こいつが本物か。確かに句の頭を読むと『なむやくししうにしむ』となるな。この後ろにある二つの歌は何だ」

    「別の歌らしいんだけど、『白根に今朝は雪ぞ降りける』ってえのが、夢吉の歌ん中に入ってるんですよ。それで、そいつも写しといたんだ」

    「その歌は堯恵(ぎょうえ)っていう歌人が詠んだらしいですよ。鷺白先生がそう言ってました」

     新三郎がそう説明した。

    「ちょっと夢吉のを見せてみろ」

     夢吉の歌と龍山の歌を比べてみると似ているようで、少しづつ違っていた。石段に座り込んで、二つの歌を見比べているとお夏も来て加わった。

    「やっぱり、歌の順番が違いますねえ」と新三郎が言った。

    「いや、順番だけじゃアねえな。題辞(でえじ)と歌も違ってる」と一九が言う。

    「そうなんでさア、先生」と月麿がうなづく。

    「歌もバラバラになってやがるんだ。まともな歌は二つだけなんですよ。一体、夢吉の奴、何でこんな面倒臭え事をしたのか、さっぱりわからねえ」

    「こいつは難しそうだな。おめえの頭じゃア無理かもしれねえな」

    「ええ、もう俺アお手上げだ。夢吉に参ったって言いてえのに、あいつはどこに隠れちまったのか出て来ねえんです」

    「こいつは鷺白先生に見せた方がいいんじゃねえですか」

    「それしかねえな。それにしても、月麿、何かおかしかねえか」

    「おかしいって何が」

    「第一(でえいち)、夢吉は何でこんな事をして遊んでるんだ。あめえに会いたくなかったら、どこかに隠れたままでいりゃアいい。気を持たせるように、こんな事をして何が面白えんだ。前にもおめえ、夢吉からこんな謎を掛けられた事があったのか」

    「いや、そんな事アねえけど」

    「何かおかしいぞ。こいつは夢吉だけの仕業(しわざ)じゃアねえ。誰かが後ろにいて、おめえをからかってるのかもしれねえ」

    「あの例の若え男か」

    「その男はどうした。おめえの後を付けてなかったか」

    「俺も気にしてたんだけど、そんな奴はいなかったようだ」

    「おめえは誰か怪しい奴を見なかったか」

     月麿がお夏に聞いたが、お夏も誰も見なかったと言う。

    「その若えのが誰だか知らねえが、そいつだけじゃアねえ。誰か、大者が後ろにいるに違えねえ」

    「大者って誰なんです。もしかしたら、相模屋かな」

    「かもしれねえな。夢吉の居場所を知っていながら、捜してる振りをしてるのかもしれねえ」

    「あの二人が俺をからかってるってえんですか」

    「奴は歌に詳しいのか」

    「さあ、どうだか。川柳(せんりゅう)くれえならひねるとは思うけど」

    「津の国屋の旦那なら知ってるかもしれねえな」

    「あのう、もし」とお夏が声を掛けた。

    「相模屋さん、昨夜、お連れさんと一緒に桐屋に泊まったんですよ。夢吉さんがどこかに行っちゃったって、やけ酒飲んでたみたいです。夢吉さんの居場所を知ってるとは思えませんけど」

    「そうか、奴らは桐屋に泊まったのか。夢吉の居場所を知ってるなら、夢吉のとこにいるはずだ。となると奴も本当に知らねえのかもしれねえ」

    「そうこなくっちゃアいけねえ。夢吉が相模屋なんかと一緒にいるわけがねえ。夢吉は相模屋たアきっぱりと別れたんだ。それなのに、めめったらしく草津まで追って来るから隠れちまったんだ」

    「おめえも人の事が言えるか」

    「そりゃアそうだけど。畜生、どこに隠れてやがんだ」

    「とりあえず、それを鷺白先生に見せましょう。何かがわかるかもしれない」

     新三郎が言うと一九はうなづいたが、

    「ちょっと待て」と手を上げた。

    「俺も本物を写しておこう」

     一九は新三郎を連れて、薬師堂の中に入った。龍山の歌は壁に飾ってあった。堯恵の歌も隣りにある。両方の歌を手帳に写し、薬師堂の右横にある芭蕉の句碑も写した。

     


     山なかや菊は手折(たお)らぬ湯の匂ひ

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